整骨院等に代表される手技療法の業界。ニッチな市場ゆえに税理士関与の度合いも低いようでしたが、最近では高齢化・リラクゼーション(癒し)の進展を背景に、大きく様変わりを見せています。そうした市場をターゲットに、10年以上前から顧問先拡大を続け、その結果、150件超の関与実績がある上田税理士に、業種特化戦略の秘訣を語ってもらいました。

「手技療法」の業界に特化したキッカケからお聞きします。

手技療法の業界に目をつけたのは今から10年ほど前です。当時から整骨院など手技療法の施術院を顧問先に抱えていましたが、国家資格でもある柔道整復師の専門学校が増えてきたことに注目しました。この学生たちの多くが10年後に独立・開業する。そうなれば、税務や経営をサポートする専門家が必ず求められるようになる。そんな考えから手技療法の業界に特化しようと考えたわけです。その結果、現在、150件を超える手技療法の施術院を関与させて頂いております。

この業界では、顧問税理士をつけているケースが少ないそうですね。

手技療法の施術院が法人組織となっている場合は別ですが、個人事業主においては税理士がついてないケースが結構多いですね。その代わり、経理や税金相談を行う組織や団体、たとえば、青色申告会に入っている方が多く見られます。ただ、皆さん治療に忙しいので、しっかりと帳簿をつけているところは少ないと思います。

税理士としては新規顧客獲得のチャンスがありますね。

そうですね。一般的に医者や歯医者には顧問税理士がついていますから、そこを獲得するとなると相当なエネルギーが必要です。しかし、整(接)骨院や鍼灸院に代表される手技療法の業界には、極めてライバルが少ないので、新規獲得のチャンスは十分にあります。とくに、私の事務所では新規設立法人への関与をメインとしていますので、既存の税理士と争うこともありません。ただ、一般企業への関与に比べると、手技関連の顧問料は安いと思います。個人事業主の場合は月額1万円、確定申告で同8万円、年間でも20万円くらいの顧問料を頂戴しております。

業界的には新規開業の施術院が目立っていますが、実際のところ、整骨院などは儲かっているのでしょうか。

顧問先の整骨院などを見ていると、一般の会社と違って仕入れなどもありません。そのため、ビジネスの付加価値が非常に高い。顧問先の分析をしてみると、1カ月の売上は平均150万円ぐらいだと思います。大雑把に言って家賃(賃料)とパートなどの人件費を払えば、残りは院長自身の収入になるといっても過言ではありませんから。また、あまり知られていませんが、整骨院などは病院と同じように医療保険の請求権があります。ですから、請求さえし忘れなければ、貸し倒れの心配などもありません。そういった意味においても、非常に固いビジネスだと思います。

キャッシュフローも良いわけですね。

整骨院における保険請求については、本来、患者が保険請求団体に請求する業務を、整骨院が代わって行うことになっています。保険請求から入金までの時間ですが、保険請求団体によってさまざまです。なかには半年かかるところもあります。しかし、最近は、保険請求団体が立替払いをしてくれるサービスも出てきました。すぐにお金を支払う代わりに手数料を取る。この形態は一種のファイナンス・ビジネスですね。こうした団体が出てきたことで、整骨院などのキャッシュフローは、以前と比べかなり改善されてきたと言えます。

確かに、保険請求などは院長先生にとって面倒臭い作業ですね。

はい。請求団体によって経理処理も変わってきますので、実務的にはとても大変です。とくに、未入金の金額を把握するのが煩わしいですね。というのも、保険請求によって入金された金額は、何件でいくらと示されているだけ、個々の明細が付いていません。そのため、金額や時期を照らし合わせながら推定で処理しなければなりません。これをずっと放置していると、確定申告のときに地獄を見ることになるわけです。

では、整骨院などの顧問先はどうやって増やしているのですか。

医者や歯医者は「紹介」が多いですが、手技療法の業界も似ていると思います。とくに、柔道整復師になるためには専門学校に3年間通わなければなりません。そこで同級生や友人などのパイプが出来ますので、そこからの「紹介」という、人的なつながりからのルートという点では似ており、それが大きな市場進出のきっかけともなっています。

新規設立法人はどのような営業で獲得しているのでしょうか。

手技関連事業者のデータを購入してDMを送った後、電話によるフォローコールなどで追いかけます。他の会計事務所でもDM作戦を実施しているところはあるようですが、電話でのフォローがないと難しいと思います。それと、最近は勉強会などを積極的に開催しています。整骨院などの経営者は治療に忙しいので、なかなかビジネスの勉強をする機会がありませんから。これは、顧問先向けのサービスですが、先ほどもお話したとおり、横の繋がりが強い業界ですから知人や仲間の柔道整復師などを連れてきてくれるわけです。そこから新規契約に繋がることも少なくありません。先日も都内で勉強会を開きましたが、30人〜40人くらい参加してくれました。勉強会では私の話のほか、実際に売上を伸ばしている整骨院の経営者や、保険関係者に保険請求の仕方などを解説してもらう場合もあります。

個人事業主が法人成りするケースも多いのでしょうか。

治療院が軌道に乗って所得が増えてくると、個人事業主から法人へと移行するケースが出てきます。個人より法人の方が税務面でも得ですし、生命保険の掛け金を経費扱いにしたり、社宅、役員報酬など所得を分散することもできます。法人化のアドバイスは積極的に行っています。

とくに、治療院の開業支援なども行っているのでしょうか。

開業のためのコンサルティングを実施している企業もありますが、開業資金の調達から運転資金の相談、記帳指導などトータルな指導を行うことで、顧問契約に結び付けています。一般の起業家もそうですが、整骨院などを開業する方からは資金調達に関する相談が非常に多い。最近、治療院の開業者もかなり増えてきており、とくに団塊の世代のジュニアたち、いわゆるベビーブームの子供らたが、現在は30歳〜35歳となっています。この年代は、ほかの整骨院で経験を積んで、ちょうど独立を考える頃です。このジュニアたちの開業ラッシュが現実的に始まっているわけです。10年前に専門学校が増えてきたと言いましたが、私はその時点でこの開業ラッシュを予測していました。

手技療法の国家資格者が多ければ、それだけ過当競争になるわけですが・・・

そうですね。確かに、今後は過当競争の時代に突入するといえるでしょう。ただ、タウンページで歯医者と整骨院を調べると、圧倒的に歯医者の方が多いんですよね。また、今後は高齢化社会が進展していきますので、整骨院などに通う患者は確実に増えてくる。そう考えると、ビジネスチャンスは大いにあると思います。ただ、医療保険の予算がかなり絞られてきましたので、保険請求分が減少していく可能性があります。そのため、どうやって自費診療の部分を増やしていくかが今後の課題といえるでしょう。

今後の展望などお聞かせ下さい。

一般の企業と比べると、確かに整骨院など手技療法業界はニッチな業種であり、一般的に顧問料が低いかもしれません。ですが、会計事務所の新人職員に一般企業の担当をいきなり任せるわけにもいかない。そこで、入所して1〜2年ぐらいは手技療法の業界を担当させると、本人にとっても非常に良い勉強になるようです。もちろん、ビジネスに興味のある経営者はコンサルティングの依頼や、法人化の相談を持ちかけてくることもあります。その時には所長やベテラン税理士がサポートする。最近、手技療法業界のNPO団体と提携してマーケット参入を可能とした組織「手技療法会計人会」も活動を開始したところですが、ここに入会するも良いでしょう。税理士にとってライバルの少ないビジネスマーケットですから、手技療法の業界に特化してみるのも面白いかと思います。

(インタビュー 株式会社ゼイカイ 高橋篤夫)

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